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医療法人が介護事業・健診・売店を運営できる理由と手続き——附帯業務の要件を正しく理解する

2026年10月14日 菊池 未聖|行政書士・行政書士きくち事務所代表

クリニックを医療法人化して数年が経過したころ、「もう少し事業の幅を広げたい」と考えるドクターは少なくありません。デイサービスや訪問看護との連携を深めるために、いっそ法人として直接運営したい。あるいは患者さんの利便性を高めるために院内に売店を置きたい。健康診断事業を本格化して、地域の企業から受託したい——そうした経営的な発想は、法人化をきっかけに自然と湧いてくるものです。

ところが、医療法人はその性格上、運営できる事業の種類が法律によって厳格に定められています。株式会社のように「何でもやっていい」わけではなく、医療法に定められた業務の範囲内でしか事業を行うことができないのです。この範囲を超えた事業を無断で行えば、法令違反として行政指導や認可取り消しのリスクを招きます。

本稿では、医療法人が本業(病院・診療所の開設・運営)以外に行える「附帯業務」とは何か、どのような手続きを経れば運営が可能になるのか、費用・期間の実態、そして行政書士が現場で目にするよくある失敗例を順を追って解説します。医療法人の理事長・事務長の方はもちろん、これから医療法人化を検討しているドクターにも、将来の事業展開を考える材料としてお読みいただければ幸いです。

医療法人の業務範囲は、医療法第42条によって明確に規定されています。同条は「医療法人は、その開設する病院、診療所又は介護老人保健施設等の業務に支障のない限り、定款又は寄附行為の定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる」として、附帯業務の種類を列挙しています。

ここで重要なのは「定款に定めるところにより」という一文です。附帯業務を行うには、単に「やりたい」というだけでは足りません。その業務が定款(医療法人の根本規則)に記載されていること、そして都道府県知事の認可を受けていることが前提条件になります。

医療法第42条が認めている附帯業務の主なものを整理すると、以下のとおりです。

  • 医療関係者の養成・研修
  • 医学・歯学に関する研究所の設置
  • 介護老人保健施設の設置・運営
  • 介護医療院の設置・運営
  • 指定居宅サービス事業(訪問介護、通所介護など)
  • 指定居宅介護支援事業
  • 指定介護予防サービス事業
  • 老人福祉法に規定する有料老人ホームの設置・運営
  • 障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービス事業等
  • 病院・診療所の業務に関連する収益業務(売店・駐車場等)
  • その他、厚生労働大臣が定める業務

つまり、介護事業・健診センター・売店のいずれも「附帯業務」として医療法人内で運営することは可能です。ただし、それぞれ根拠条文や要件が異なり、手続きの難易度も異なります。

附帯業務の3類型——介護・健診・売店の違いを整理する

介護事業(訪問介護・通所介護・居宅介護支援など)

医療法人が最も多く手がける附帯業務がこのカテゴリです。訪問看護や通所リハビリ(デイケア)は医療保険の給付対象として本業との連続性が高い一方、通所介護(デイサービス)や訪問介護、居宅介護支援(ケアマネジメント)は介護保険法上の事業となるため、都道府県・市町村から介護保険事業者の指定を別途取得する必要があります。

医療法人が介護事業を行う場合、手続きは大きく二段階になります。まず定款に当該業務を追記し、都道府県知事の認可を受けること(定款変更認可)。次に介護保険法に基づく事業者指定申請を行うこと。この二段階を適切な順序で進めることが、スムーズな開業のカギです。

健康診断事業(健診センター・人間ドック)

企業健診や人間ドックは、診療所・病院の機能の延長として位置づけられる部分もありますが、医療法上は「本来業務」とは区別されます。とくに労働安全衛生法に基づく定期健康診断の受託や、特定健康診査・特定保健指導の実施については、保険者との委託契約や厚生局への届出が必要になります。

健診専用の施設を設けて「健診センター」として独立的に運営する場合は、診療所の開設・変更届と合わせて、定款上の業務欄を整理しておく必要があります。また、健診事業の収益を本業と切り分けて管理する会計処理も重要です。

収益業務(売店・駐車場・食堂など)

医療法第42条の中に「病院等の業務に関連する収益業務」という規定があります。これは、患者・利用者・職員の利便のために付随して行う事業であり、売店・食堂・駐車場などが典型例です。ただし、この収益業務が認められるのは「社会医療法人」と「特定医療法人」に限定されている点に注意が必要です。一般の医療法人(持分あり・持分なし)は、この規定を根拠とした収益業務を行うことができません。

一般的な医療法人が売店や食堂を院内で運営したい場合、多くのケースでは別法人(合同会社や株式会社)を設立して運営するか、テナントとして第三者に賃貸する形をとることになります。この点は誤解が多いため、後述の「よくある失敗」でも改めて触れます。

手続きの流れ——定款変更認可から事業者指定まで

ここでは、最も手続きが複雑な「介護事業の附帯業務化」を例にとり、全体の流れを説明します。

  1. 事前相談(都道府県の医療法人担当課)
    定款変更を伴う附帯業務の追加は、都道府県の医療政策課等が窓口になります。多くの都道府県では年数回の「認可申請受付期間」を設けており、この期間に合わせて書類を準備する必要があります。まず事前相談で受付スケジュールと必要書類を確認することが重要です。
  2. 社員総会・理事会での決議
    定款変更には、社員総会での特別決議(定款所定の要件による)が必要です。議事録を作成・保管します。
  3. 定款変更認可申請書の作成・提出
    申請書に加え、変更後の定款・理事会議事録・社員総会議事録・事業計画書・収支予算書などを添付します。都道府県によって求められる書類の種類や様式が異なります。
  4. 都道府県知事の認可・登記変更
    認可が下りた後、定款変更の内容を法務局に登記します(登記が必要な事項の場合)。
  5. 介護保険事業者指定申請
    定款変更認可後、各事業所の所在地を管轄する都道府県または市町村へ指定申請を行います。指定日は原則として各月の1日となっており、指定を受けてから初めて介護保険サービスの提供・請求が可能になります。
ポイント:定款変更認可と介護事業者指定はそれぞれ別の行政手続きです。認可申請のスケジュールと指定申請の締切日を逆算しながら動かないと、開業予定日が大幅にずれることがあります。余裕を持って6〜12ヶ月前から準備を始めることをお勧めします。

費用と期間の目安

附帯業務追加に関する手続きの費用・期間は、業務の種類と都道府県によって異なります。以下は実務上の目安です。

手続き 期間の目安 主な費用
定款変更認可申請(準備〜認可) 3〜6ヶ月 行政書士報酬:15〜30万円程度(書類の複雑さによる)
法務局への変更登記 1〜2週間 登録免許税:1万円〜 / 司法書士報酬:3〜5万円程度
介護事業者指定申請(準備〜指定) 2〜4ヶ月 行政書士報酬:10〜25万円程度(事業種別による)
特定健康診査実施機関の登録等 1〜3ヶ月 保険者との契約交渉・申請費用は事案による

費用はあくまでも目安であり、法人の規模・既存の定款内容・追加する附帯業務の数・都道府県の運用によって変動します。とくに申請期間の年数回制限がある都道府県では、書類不備で一度不受理になると次の期間まで数ヶ月待つことになるため、初回から完成度の高い申請書を提出することが費用対効果の観点でも重要です。

よくある失敗と注意点

「本業に支障がない」要件を軽視する

医療法第42条には「本業に支障のない限り」という条件が明記されています。附帯業務の規模や内容が本来の医業を圧迫するような場合、都道府県から認可を得られない、あるいは事後的に指導を受けることがあります。特に人的・財務的なリソースが限られるクリニック規模の医療法人では、事業計画の段階で「人員・設備の確保が医業と両立できるか」を慎重に検討する必要があります。

一般の医療法人が収益業務を行うケース

前述のとおり、売店・食堂等の収益業務は社会医療法人・特定医療法人にのみ認められています。にもかかわらず、「法人が直接売店を経営している」というケースを私はこれまでに複数件確認しています。経営者が知らずに行っているケースもあれば、前任の担当者から引き継ぎを受けた際に整理されていなかったケースもあります。このような状態は、都道府県の実地検査(立入検査)で指摘される可能性があるため、現在の事業内容が医療法上の業務範囲内に収まっているかを定期的に確認することが必要です。

定款と実態のズレ

「定款には書いてあるが、実際には事業者指定を取得していない」「事業者指定は取得したが、定款の業務欄に記載がない」というズレが生じているケースも少なくありません。これは監督官庁への書類提出の際や、事業承継・M&Aの際のデューデリジェンス(事前調査)で問題になることがあります。

定款の業務欄・附帯業務の記載は、実際に行っている事業と一致していることが大前提です。「昔やめた事業がまだ定款に残っている」という状態も、整理が必要です。定款と実態の棚卸しを定期的に行うことをお勧めします。

介護人材の確保を後回しにする

介護事業者の指定申請には、職種ごとの人員配置基準を満たしていることの証明が求められます。管理者・サービス提供責任者・介護福祉士等の配置が指定日までに完了していなければ、指定を受けられません。実務上、採用が間に合わず指定日を先延ばしせざるを得なかったという事例は非常に多く見られます。人材採用は申請準備と並行して、できる限り早期に着手してください。

専門家(行政書士)に依頼するメリット

定款変更認可申請や介護事業者指定申請は、いずれも法人自身で行うことも制度上は可能です。ただし、実務上は次のような点で専門家への依頼が有効であると考えています。

  • 都道府県ごとの運用差への対応:添付書類の種類・様式・確認事項は都道府県によって異なります。担当課との事前折衝に慣れた専門家の関与は、手続きのスピードと確実性に直結します。
  • スケジュール管理:定款変更認可の申請期間・介護事業者指定の締切・人員配置の確認期限など、複数の締切が絡み合います。全体を俯瞰してスケジューリングできる専門家が伴走することで、計画通りの開業が実現しやすくなります。
  • 事業計画書・収支予算書の作成支援:認可申請に添付する事業計画書や収支予算書は、行政が審査する書類です。実態に即しつつ、審査基準を意識した内容に仕上げる必要があります。
  • 定款の棚卸し・将来設計:附帯業務の追加を機に、現行定款全体を見直すことで、将来の事業承継や法人再編を見据えた設計ができます。

なお、登記手続きは司法書士の業務領域であり、行政書士が直接行うことはできません。定款変更認可後の法務局への登記は、提携する司法書士と連携して対応することが一般的です。実際の手続き体制については、依頼前に確認しておくことをお勧めします。

まとめ——附帯業務を正しく理解するための要点

  • 医療法人が運営できる事業の種類は医療法第42条によって列挙されており、定款への記載と都道府県知事の認可が前提となる。
  • 介護事業を附帯業務として行う場合は、定款変更認可と介護保険事業者指定の二段階の手続きが必要。
  • 売店・食堂等の収益業務は社会医療法人・特定医療法人のみに認められており、一般の医療法人が直接運営することは医療法上認められていない。
  • 申請スケジュールは都道府県によって年数回に限定されているため、開業希望日の6〜12ヶ月前から準備を始めることが現実的。
  • 定款の業務欄と実態のズレは、立入検査やM&A時に問題になるため、定期的な棚卸しが重要。
  • 介護人材の採用は申請準備と並行して進めなければ、指定日がずれるリスクがある。
  • 専門家への依頼は、都道府県対応・スケジュール管理・書類品質の面で有効。

Closing Note

「附帯業務」という言葉は、知っているようで意外に正確に理解されていないことが多いと感じています。「医療法人なんだから医療に関係することなら何でもできるだろう」という認識は、残念ながら正確ではありません。医療法人は非常に高い公共性を持つ法人類型であるがゆえに、運営できる事業の範囲が厳格に管理されているのです。

「事業の幅を広げたい」というドクターの想いは、地域医療への貢献や患者さんへのサービス向上につながる、とても前向きなものです。その想いを形にするためにこそ、制度の正確な理解と適切な手続きが不可欠です。附帯業務の追加をお考えの場合は、まず現在の定款内容と実態の確認から始めることをお勧めします。ご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。

菊池 未聖

菊池 未聖

行政書士・行政書士きくち事務所代表
医療法人鳳應会 理事

慶應義塾大学法学部卒。助成金・補助金の申請と医療法人設立を専門とする行政書士。ものづくり補助金・IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金・キャリアアップ助成金・事業再構築補助金からクリニック開業補助金まで。採択される申請書の書き方を中小企業・個人事業主、医療機関向けに発信。